一夜の甘い夢のはず
「いえ。今はグループ外の会社で経験を積ませてもらっています。将来的にはグループ内に戻って桜雅銀行などでもさらに経験を積ませていただく予定ではありますが、お父様がお爺様から総帥の座を引き継いだ後の予定ですし、まだまだ先のことです」
グラスを片手に朗らかに晴政さんは言うけれど、私の頭にはクエスチョンマークがいっぱい浮かんでいた。
「そう、すい……?」
曾祖父の甥の姪のハトコのなんやらかんやらが桜雅銀行の社長です、っていう話じゃないのはわかった。でも、わからない。今すぐスマホで検索したい気分だった。
「ああ、すみません。あまり一般的な言い方ではないかもしれませんね……そうですね……グループ全体の社長という風でしょうか。桜雅銀行の頭取は従伯父ですが、重要な局面では総帥である祖父が最終的な判断を下しますし、頭取でも総帥の意思に反した経営は出来ません」
頭取……またわからない単語が出て、一生懸命頭の中の辞書を引く。
昔見たドラマに出てきてた気がする。たぶん、銀行のお偉いさんのことだったと思う。社長とは違うの? それとも一緒?
「連結従業員全員、関連会社や顧客の皆様を含めれば、本当に日本中の方と言っても過言ではないです。いずれ自分がそんな方々の……」
晴政さんがグラスの中に視線を落としながら水面を揺らす。
その目が陰った気がしたのは、明かりのせいだけじゃないと思う。
「すみません。弱音を吐きそうになってしまいました。聞かなかったことにしてください」
「いいえ! 正直、全然わかってないので……」
曖昧に笑うことしか出来ない自分が情けない。
女は馬鹿ぐらいがいいなんて、前時代の価値観をきっと晴政さんは持ってないだろうな。仕事の弱音でも愚痴でも、支えられるようなアドバイスが出来るような女性が相応しいし好きなんだろうな。
まあ、私が晴政さんのなにを知ってるんだって感じだけど。
大きな肩書で、目がくらみそうだった。
晴政さんは将来、桜雅銀行どころか桜雅財閥のグループ全体を率いる立場になる人。
――財閥御曹司。
物語の中でしか見たい言葉が脳裏を過って、胸の奥が冷えた気がした。
「わかってない、ので……地面の穴にでも話してるつもりで弱音でも愚痴でもなんでもどうぞ」
それでも、晴政さんは今目の前にいる。
野良猫でも、地面の穴でも、晴政さんの気持ちを癒したり楽にできたらいいのにって思う。
だから、せいいっぱいの笑顔を。
私が笑うと、つられたように晴政さんも微笑んだ。
「それでは、また……完全に二人っきりのときにでも」
人の気配に気がついていたのか、晴政さんがそう言うと料理が運ばれてきた。
グラスを片手に朗らかに晴政さんは言うけれど、私の頭にはクエスチョンマークがいっぱい浮かんでいた。
「そう、すい……?」
曾祖父の甥の姪のハトコのなんやらかんやらが桜雅銀行の社長です、っていう話じゃないのはわかった。でも、わからない。今すぐスマホで検索したい気分だった。
「ああ、すみません。あまり一般的な言い方ではないかもしれませんね……そうですね……グループ全体の社長という風でしょうか。桜雅銀行の頭取は従伯父ですが、重要な局面では総帥である祖父が最終的な判断を下しますし、頭取でも総帥の意思に反した経営は出来ません」
頭取……またわからない単語が出て、一生懸命頭の中の辞書を引く。
昔見たドラマに出てきてた気がする。たぶん、銀行のお偉いさんのことだったと思う。社長とは違うの? それとも一緒?
「連結従業員全員、関連会社や顧客の皆様を含めれば、本当に日本中の方と言っても過言ではないです。いずれ自分がそんな方々の……」
晴政さんがグラスの中に視線を落としながら水面を揺らす。
その目が陰った気がしたのは、明かりのせいだけじゃないと思う。
「すみません。弱音を吐きそうになってしまいました。聞かなかったことにしてください」
「いいえ! 正直、全然わかってないので……」
曖昧に笑うことしか出来ない自分が情けない。
女は馬鹿ぐらいがいいなんて、前時代の価値観をきっと晴政さんは持ってないだろうな。仕事の弱音でも愚痴でも、支えられるようなアドバイスが出来るような女性が相応しいし好きなんだろうな。
まあ、私が晴政さんのなにを知ってるんだって感じだけど。
大きな肩書で、目がくらみそうだった。
晴政さんは将来、桜雅銀行どころか桜雅財閥のグループ全体を率いる立場になる人。
――財閥御曹司。
物語の中でしか見たい言葉が脳裏を過って、胸の奥が冷えた気がした。
「わかってない、ので……地面の穴にでも話してるつもりで弱音でも愚痴でもなんでもどうぞ」
それでも、晴政さんは今目の前にいる。
野良猫でも、地面の穴でも、晴政さんの気持ちを癒したり楽にできたらいいのにって思う。
だから、せいいっぱいの笑顔を。
私が笑うと、つられたように晴政さんも微笑んだ。
「それでは、また……完全に二人っきりのときにでも」
人の気配に気がついていたのか、晴政さんがそう言うと料理が運ばれてきた。