一夜の甘い夢のはず
 天蓋付きのベッドって、実在したんだ。そんな新鮮な驚きを隠しながら、寝室へと移動する。
 春政さんに手を引かれ、ベッドの前で抱きしめられる。
 すっぽりと春政さんの体に包まれて、前と同じ清涼な薔薇の香りがした。今日は、私のためにこの香水をつけてきてくれたのかと思うと、胸がいっぱいになる。
 腰に当たっていた春政さんの手が体を撫であがって、頬に触れる。
 部屋は暗い。それでも見上げた春政さんの目は、はっきりと見えた。

「お嫌でしたら、いつでも言ってください」

 不安げに揺らぐ眼差しに、私はせいいっぱいかかとを上げて彼の首に腕を伸ばす。
 私の仕草に春政さんの目が細められて、私に応えるように身を屈めてくる。
 私が目を閉じると唇が重なり、何度もついばまれて体の中から愛撫される。
 うんと背を伸ばして、うんと膝を曲げて。
 不格好な姿勢でのキスはバランスを崩して、二人でベッドに倒れ込む。それでも後頭部に回った春政さんの手は私を優しく支えてくれて、私を捕らえて離さない。
 隙間がもどかしいように体を密着させて、何度も角度を変えて唇を翻弄される。
 熱い口づけに頭がとろけて、息継ぎのタイミングさえわからなくなる。
 回していた腕を解いて春政さんの胸を叩くと、ようやく息継ぎが出来た。

「すみません、お嫌でしたか……?」

 ベッドに手をついて、私から上体を話して春政さんが聞いてくる。
 どきどきする胸を抑えながら、眉を寄せる春政さんの頬に手を伸ばす。

「いえ。ちょっと、苦しかっただけで……嫌じゃ、ないです」

 安心させるように撫でると、春政さんの手が重ねられて握られる。手のひらにキスをされて、唇が離れたときには妖艶な微笑で私を見下ろしていた。

「ありがとうございます。では――遠慮なく」

 その眼差しに、触られてもいないのに背筋を快感が駆け上がる。
 唇を塞がれ、もうなにも言えなかったし、言う必要もなかった。
 彼の中のなにかに火が付いたようで、今日のために買ったフレアスカートの裾から春政さんの手が忍び込む。
 私も手を伸ばして、彼のボウタイに手をかける。
 解けるタイに、とても綺麗な風景だと春政さんを見上げていた。
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