一夜の甘い夢のはず
初デート
ネイビーのニットにラベンダーのフレアスカート。そう高くはないけどヒールつきのパンプスに、小さめバッグ。雑誌のデートコーデそのまま……といっても、薄給の保育士が用意した雑誌よりもゼロが一個足らないお洋服たちだけど、精一杯のおめかしをして私は職場最寄りの駅に立っていた。
今週は元々シフトから外れていたから同僚に見られても後ろめたいことはないし、土曜日は預ける人も少ないから送迎の保護者と鉢合わせる心配も少ない。でも、こうして待ち合わせているのを、誰か知っている人に見られる可能性と思うとドキドキする。
先生、この間お見掛けしましたけどデートですか? って言われたらどうしよう。プライベートに踏み込んでくるタイプの保護者はいないと思っているけど、内心はわからない。
これはデート……なのかな?
お礼をしたいって言ってくれたけど、ただ道案内をしただけ。それでわざわざ待ち合わせをしてって、大げさすぎない? 私が彼――桜雅さんに惹かれたみたいに、桜雅さんも私になにか惹かれるものを感じて誘ってくれていたのなら……そう思うけど、期待して肩透かしになるのが目に見えてるから、妄想は控えめにしておこう。
なにかちょっとお礼の品を手渡されて即解散とか、せいぜいちょっとお茶を奢ってもらえるぐらいかな。趣味がカフェでの甘い物巡りとか、ギャップを妄想していたことを思い出して笑みがこぼれる。
唇一つとっても、なんだか違和感。仕事柄、普段はほぼすっぴんに近いナチュラルメイク。グロスを塗った唇の感触とか、いつもよりも長いまつ毛の質感とか、なんだか自分じゃないみたい。しっかりメイクが久しぶりすぎて、やり過ぎてないかも不安になる。
そう。仕事中はほぼメイクらしいメイクをしてないから、仕事帰りだったあの日もほぼすっぴんだった。友達とごはんとか出かける予定があればもう少しマシなんだけど、あの日はスーパー寄るぐらいしか予定なかったから、メイク直しもしていなかった。服装も保育園の仕事着そのまま、ほぼジャージにスニーカーみたいな格好。保育所を出るときに髪を結い直した記憶があるのが唯一の救い。だから、三つ揃えのスーツをピシッと決めた彼と違って、私に異性を惹きつける要素はゼロだった。だから、やっぱり妄想は控えめに。
今日の見違えた姿に心ときめかせてくれないかな。なんて妄想も、それだけの技量もないので夢のまた夢。
ただもう一度、桜雅さんに会える。
それだけが本当のことと、そう思いたかった。けど、約束の三時から時は過ぎてもうすぐ四時になろうとしていた。
からかわれていただけ。ただ、それだけのこと。そう思って帰ろうと思った瞬間――
「一ノ瀬百華様ですか?」
私に声を掛けてきたのは、見知らぬ老紳士だった。
今週は元々シフトから外れていたから同僚に見られても後ろめたいことはないし、土曜日は預ける人も少ないから送迎の保護者と鉢合わせる心配も少ない。でも、こうして待ち合わせているのを、誰か知っている人に見られる可能性と思うとドキドキする。
先生、この間お見掛けしましたけどデートですか? って言われたらどうしよう。プライベートに踏み込んでくるタイプの保護者はいないと思っているけど、内心はわからない。
これはデート……なのかな?
お礼をしたいって言ってくれたけど、ただ道案内をしただけ。それでわざわざ待ち合わせをしてって、大げさすぎない? 私が彼――桜雅さんに惹かれたみたいに、桜雅さんも私になにか惹かれるものを感じて誘ってくれていたのなら……そう思うけど、期待して肩透かしになるのが目に見えてるから、妄想は控えめにしておこう。
なにかちょっとお礼の品を手渡されて即解散とか、せいぜいちょっとお茶を奢ってもらえるぐらいかな。趣味がカフェでの甘い物巡りとか、ギャップを妄想していたことを思い出して笑みがこぼれる。
唇一つとっても、なんだか違和感。仕事柄、普段はほぼすっぴんに近いナチュラルメイク。グロスを塗った唇の感触とか、いつもよりも長いまつ毛の質感とか、なんだか自分じゃないみたい。しっかりメイクが久しぶりすぎて、やり過ぎてないかも不安になる。
そう。仕事中はほぼメイクらしいメイクをしてないから、仕事帰りだったあの日もほぼすっぴんだった。友達とごはんとか出かける予定があればもう少しマシなんだけど、あの日はスーパー寄るぐらいしか予定なかったから、メイク直しもしていなかった。服装も保育園の仕事着そのまま、ほぼジャージにスニーカーみたいな格好。保育所を出るときに髪を結い直した記憶があるのが唯一の救い。だから、三つ揃えのスーツをピシッと決めた彼と違って、私に異性を惹きつける要素はゼロだった。だから、やっぱり妄想は控えめに。
今日の見違えた姿に心ときめかせてくれないかな。なんて妄想も、それだけの技量もないので夢のまた夢。
ただもう一度、桜雅さんに会える。
それだけが本当のことと、そう思いたかった。けど、約束の三時から時は過ぎてもうすぐ四時になろうとしていた。
からかわれていただけ。ただ、それだけのこと。そう思って帰ろうと思った瞬間――
「一ノ瀬百華様ですか?」
私に声を掛けてきたのは、見知らぬ老紳士だった。