イケメン御曹司は恋に不慣れ

昔は、いつかは私だけを好きになってくれる人が現れると信じていた。
だが、いつの間にかそんなことを信じるよりも食べることへの興味関心が勝るようになった。そして、大学を選ぶ頃には男のいない世界で大好きな食について学ぼうと考え、女子大の栄養科に進学した。

女子大で過ごす女だけの世界は楽しくて、本当に彼氏なんていらないって本気で思っていたのに、あの人に会って気持ちがぐらついた。
今日再会なんてしなければ時間とともに記憶から薄れていくはずだったのに。

「はあぁ…」
「ため息なんてどうしたの?」
「なんか…私ちゃんとやっていけるのか不安になってきました」
「え、なんで? ひまりちゃんなら大丈夫よ。飲み込み早いし問題ないよ」
「そうでしょうか…。先ほどのオーナーの様子を見ていたら、私…今日にでも辞めさせられるんじゃないかと心配になってきました」
「そこは祐二がちゃんと言うから大丈夫よ。さあ、そろそろ準備にいきましょう」
「はい」

笑顔で返事をしたものの、まだたいした仕事もできない私はオーナーの好みのタイプではない訳で、そんな女を雇うことに抵抗があるのではないかと一人で考えてしまった。

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