人気イケメンダンスグループのボーカル担当『天野先輩』に溺愛されました。
「そのクリームパン、お昼ご飯?」

 私に顔を近づけながら先輩が訊いてきた。

「はい、そうです」

 こんな近くで先輩と目を合わせたら、ドキドキが爆発して自分が溶けて消えてしまいそうで。だから私はうつむきながら返事をした。

「これ、一緒に食べない?」

 うつむいている私にも見えるようにお弁当箱を見せてくれた。おにぎり2つに卵焼き、唐揚げやポテトサラダ、野菜もカラフルに。美味しそうだし栄養バランスもよさそうなお弁当。

「こ、これは?」
「いつもお弁当を作っていたのに、あのちゃんの右腕が痛くなったせいで作れなくなっていたりしたら……って考えて、多めに作ってみたよ」

 顔を勢いよくあげて先輩を見つめた。
 そんなことまで考えてくれていたなんて……。

 お昼ご飯はいつもこんな感じだから、怪我とかは何にも関係なくて。正直もう右腕も痛くない。でもこんなことまでしてもらって。

「ありがとうございます」

 ずっと応援していた先輩の近くにいられて、こんなに素敵なお弁当も作ってもらえて。一生分の運を使い果たしたかもしれない。もしそうなら、一緒にいられる時間をもっと大切にしないと。

 私は唇をぎゅっとしめて、涙をこらえた。それから自分の右腕をギュッとおさえた。

――もう少し、痛いふりしていていいかな?


「やっぱり痛いんだね、ごめんなさい」

 お弁当をランチョンマットに置いた先輩は割り箸をひとつ割った。

「好き嫌いはある?」
「い、いえ。ないです」

「じゃあ、まずはこれね」

 そう言った先輩は卵焼きをひとくちサイズになるように箸で切って……。

 なんと私の口の中にその卵焼きを入れた。

 先輩が食べさせてくれるなんて。
 私の心臓が跳ね上がりすぎた。

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