人気イケメンダンスグループのボーカル担当『天野先輩』に溺愛されました。
 気がつけば、天野先輩をぎゅっと守るようにして私は倒れていた。

 先輩をぎゅっとするなんて、いつもなら刺激的すぎてドキドキしちゃって倒れてしまいそうな状況だけど。今はそれどころではなくて。

 先輩の安否を確認することが一番大切――。

「先輩、大丈夫ですか?」
「う、うん。なんとか。いや、僕よりも……」

 今、体格の良い男子生徒と天野先輩が思い切りぶつかって、先輩は勢いよくとんだ。そして私は先輩のとぶ方向に全力で走った。私は看板に激突し、天野先輩のクッション代わりみたいな状態になっていた。

 私から離れた先輩は、青ざめた顔をして私の右腕をちらっと見る。
 カフェの前に立ててあった看板が直撃した場所。

 私は先輩を守るので精一杯だった。
 先輩のことしか考えていなくて……。とにかく先輩が怪我しなくて良かったなって思っていた。

 でも、ちょっと意識を右腕にやると、痛む気がしてきて、私は顔を歪めた。

「やっぱり痛いよね? こんなにかたい看板にぶつかって、僕を守ってくれて。あのちゃんがこんな目に……」

 涙目になる天野先輩……。

 待って? 痛いとか、そんなことよりも先輩は今、私のことをあのちゃんって呼んだ?

「今、私のこと、名前で……」

 先輩に質問しようとした時、天野先輩とぶつかった男子生徒が青い顔して話しかけてきた。

「だ、大丈夫ですか?」

 カフェの中からも店員が出てきて心配している様子だった。周りが自分以上にざわざわと慌てていて。そんな風景を眺めていると、逆にどんどん気持ちが冷静になってきた。そしてもう一度看板が当たった右腕を眺めて、触れてみた。

――あれっ? 思ったよりも痛くないかも?
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