人生は虹色
「さっき……聞いちゃった」



「え!何を?」



僕は振り返り、動きもしない森本さんの後ろ姿をただ見守っていた。



「先生と話してるの」



「あーあれね」



「なんていうか、朝……酷いこと言ってごめん」



森本さんはゆっくりと振り向き、沈んだ表情を滲ませる。



「あっうん……」



「分かってないのは私の方だった。一ノ瀬くんのことも知らないで!私のことを気にかけてくれてたんだよね?」



「えっと…まぁ」




「ホントごめんなさい」



深く頭を下げ、

その状態を維持しながら、

僕の返答を待っていたのか。



森本さんはピクリとも動かなかった。



「……ふふ、ははは」



僕は笑わないよう必死に堪えていたが、限界に達した感性は溢れ出していく。




「え?何がおかしいの?」



急に笑い出す僕を見て森本さんは髪や肌、服などに何か付いているのではないかと、あちらこちら確認していた。




「え?……いや、怒ったり謝ったり感情ぶっ壊れてんなぁって」



「えっ?……もしかしてバカにしてる?ふふ」




先程まで曇っていた表情が、

みるみる緩んでいくのが分かった。




「さあ〜?どうだろ〜?」



森本さんが僕を受け入れてくれた気がして、何だか気分が晴れたみたいだ。


それに、

初めて笑った表情を見て、安堵する。




「ちょっと揶揄わないでよ」




「はは、ごめんごめん。……もう帰る?」



「えっ!帰るけど……」




「じゃあ、一緒に帰ろうぜ!顰《しか》めっ面《つら》さん」



僕は微笑み、返事を待たずに、教室を後にした。
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