人生は虹色
「———おーい、一ノ瀬《いちのせ》!大きな口が開いてるぞ〜」



突然、名前を呼ばれ、

クラスメイトから視線を浴びる。



周りからの笑い声に少し恥ずかしさを覚えながら、急いでペンを取り出した。



「一ノ瀬、まだ書いてなかったのか?」



「……えーっと、はい」



「……ったく!半年なんてあっという間だぞ!文系か理系も決まってないのか?」



呆れた顔で話しかけてきた今田に、僕は少しだけ腹を立てた。



ただ今田は表には出さないが心配してくれていたのだろう。



僕の肩に置いた手からひしひしと伝わってくる。




「……いや、それは決めてます」



僕は急いでペンを動かした。



その瞬間、今田は安心したのだろう。



席から離れて行った。



「よしっ!書いた人から持ってきてくれ!」



今田の掛け声と共に、一斉に席から立ち上がる音が教室内に響き渡る。



それに続いて、僕も書き終えた用紙を今田のところまで渡しに行った。



「……おっ!一ノ瀬も書けたか?よしよし」



「……」



僕は少しだけ微笑み、何事も言わずにゆっくりと席に戻って行った。



クラスメイトが書き終える中、隣の席の森本《もりもと》さんの手が止まっているのに気づく。



僕は森本さんの曇った表情を覗き込み、話しかけようとしたがそれをやめた。



えらそうに言える立場でもないし、何をどうこう言える程、自分に余裕はなかったから。
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