人生は虹色
「いや、もうすぐ会社でソフトボール大会があってな!それで……まぁ、久しぶりにキャッチボールでもしようや」



「えっあ……うん」



渡された古く傷んだグローブに目を通す。



キャッチボールなんていつぶりだろう。



慣れないグローブに手を通すと、航兄ちゃんからボールが飛んできた。



元野球部の航兄ちゃんは、

さすが経験者もあって綺麗なフォーム。



正確に投げたボールが僕のグローブへと吸い込まれていく。



「覚えてるか?仁が小学生の時、こうやってキャッチボールしたの」



「え!したっけ?もう覚えてないわ」



航兄ちゃん達とは小さい頃にたくさん遊んでもらった記憶がある。



ふと蘇る記憶を辿りながら、

遊んでもらった記憶を思い出してみるが、

キャッチボールをした記憶だけは蘇らない。




「何だよ!忘れんなよな。俺なんか今でも鮮明に覚えてんのに」



航兄ちゃんは少し不貞腐れながら、

ボールのスピードを次第に上げていく。



「ごめんごめん」




「あん時、俺が琴美と結婚して、これから実家を出ようとしてる時にさー。

何か後ろから視線を感じるんだよ!

そんで、振り向いてみたらさ、仁が逃げるかのようにどっか行くから俺、心配して後を追っかけてみたんだよ!

そしたら、お前……隠すようにグローブ持っててさ〜!

こいつ、琴美に取られて、もう遊んでもらえないと思ったんだろうなって」



「何それ?そんなんあったっけ?」



「あったよ!悲しそうにする仁の顔、今でも覚えてるわ。

でさ、俺がグローブ持ったお前に『キャッチボールしたいんか?』って聞いたら、小さい声で『うん』って答えるもんだから琴美達と、この公園でキャッチボールしたの覚えてないんか?」



「え?あーー何かあったかも!」



なぜだろう。



懐かしい記憶が徐々に脳裏に映し出されていく。



たくさん遊んでもらった記憶。



金魚の糞みたいに後ろをついて行った記憶。



琴美姉ちゃんに大好きな航兄ちゃんを取られて悲しんだ記憶。



キャッチボールをした記憶。



全部全部、大切な僕の思い出だった。



「それに最初、仁が琴美のこと受け入れてくれなくてさ。

俺、どうしようかと心配したんだぜ。

だけど、いつのまにか琴美と仲良くなって悩みなんて、いつの間にかなくなっちまったけどよ。

あっ!そう言えば、琴美と仲良くなったのも確かあん時のキャッチボールだったよな?」



「あっ!そうだったね!琴美姉ちゃん、全然ボール違うところに投げてさぁ、めちゃめちゃ笑った記憶があるわ」



ボールを投げ合いながら、僕らは笑いあった。昔の記憶を思い出しながら。



「はは、だったな!キャッチボールにならなさすぎて投げ方、仁に教わってたもんな」



「はは、そうそう。じゃあ、それ以来だ、こうやってキャッチボールするの」



「だなっ!たまにはいいもんだろ?キャッチボール」



「……だね」



昔みたいに遊んでもらったように、

僕は懐かしい気持ちでいっぱいだった。



またこうやって、二人でキャッチボールができるなんて思わなかったから。
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