人生は虹色
「それは……自分でも分かってます」



「お前、覚えてるか?地区選抜に選ばれた日!」



「え?まぁ……」



「先生なぁ、一ノ瀬が選ばれた時、めちゃくちゃ嬉しかったんだぞ!」



先生の言葉に衝撃が走る。



あの厳しかった先生から嘘みたいな真の話。



信じるのに少しだけ時間がかかった。



「え!そうだったんですか?」



「あたりめぇだろ!あんだけ叩かれてきて、うちから選ばれることはないとか、ごちゃごちゃバカにされ続けてきたんだからな!」



先生はずっと少林寺拳法を続けてきたから、バスケの経験はなかった。



大学のサークルで遊び感覚でやった程度で、周りから『球遊びしただけで、バスケの何が分かる』とまで揶揄されたほどだった。



負けず嫌いな先生は人一倍勉強し、バスケの本を何冊も買っては、僕たちに熱血指導してくれた。



当時、弱小校で相手にもされなかったのに、強豪校へ足を運び、練習試合をしてもらうため、頭を下げていたのを僕は知っている。



強い相手と戦い、

『上手いところを盗め』とよく言っていたから。



それに、試合終わりに相手監督から

『こんなにたくさん試合、組んでもらっとんやから結果ださにゃあ!先生に失礼やろ?』

と相手監督にまで怒られることもしばしあった。



ミニバス経験者でもない僕らを周りの強豪校と肩を並べるまで、上達できたのも先生がいたからこそだった。



だから、先生も僕が初めて地区選抜に選ばれた日、目から込み上げてくるものがあったのだろう。



僕に対しては選ばれたからって、調子に乗るなよって感じだった。



それに大事なのは、先生が僕たちのために、心を鬼にして厳しい指導者になってくれたことだ。



まぁ、本当の鬼になっちゃたけれど……。
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