愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「その辺僕に聞かれても、ねぇ? でもさ、僕らって日々命がけで仕事をしているわけじゃない? だから、生きて家に帰らなきゃならない理由ってのがあったほうがいい――ってことだと僕は思うな」

「……」


 俺が所属している魔術師団消防局は、いわゆる火災に対応するための専門部隊だ。
 水魔法が得意なものや転移魔法の使い手、それから救護魔法の使い手が数多く所属している。人命救助のためにまだ燃え盛る建物の中に突入することも多いことから、魔術の腕だけでなく騎士のように体力的な側面も多く求められる特殊な部署。

 国の有事に備えて腕を磨いたり、結界を担当しているような他の部署とは異なり、俺たちの仕事は国民の日常生活と直結している。花形とは真逆の泥臭い職場だ。

 けれど、俺はそんな自分の仕事に誇りを持っている。生きて家に帰る理由など必要ない。そう思うのだが――。


「まあ、そういうわけだから、さっさと寮を出ること! お嫁さんを迎える準備を進めてよねぇ」

「他人事だと思って……」


 プレヤさんに恨み言を言いつつ、俺はため息をついた。


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