愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「嬉しい……」


 どうしましょう。口がニマニマしてしまいます。とてもじゃないけど旦那様には見せられない表情です。急いで隠そうとしたのに、旦那様がわたくしの両手首を掴んで、顔を覗き込んできました。


「だ、旦那様……」

「可愛い」

「へっ?」


 ダメです。顔からボン! と火が出てしまいそう。こんな顔、旦那様に見られたくないのに……それなのに、旦那様は『これ』が可愛いって言うし。なんだかとっても嬉しそうな表情でこちらを見つめていらっしゃるし。恥ずかしくて、旦那様の顔を、瞳を直視できるような状況じゃなくて――それなのに、ずっと見ていたくて。


(とびきりオシャレしなきゃな)


 旦那様にもっともっと可愛いって思われたい。わたくしのことを好きになっていただきたい。……いえ、旦那様がこれ以上甘々になったら、わたくしの身がもたないかもしれませんが、それでも。


「今日も一日、頑張りましょうね」


 朝から最高の気分で、わたくしは仕事に向かうのでした。
< 106 / 266 >

この作品をシェア

pagetop