愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
***


(それにしても、本気で展開が早すぎるだろう?)


 家のなかを上機嫌で見て回っているクラルテを眺めつつ、俺は密かに唇を尖らせる。


 半ば強引に寮の部屋を追われ、両親からもらった王都の家に移り住んだのはつい昨日のことだ。

 年齢的に寮を出なければならないのはまあ仕方がない。そういう不文律があるのは知っていたし、もうすぐ新年度。ほんの数日後に新しい隊員たちが入ってくる。だから、引っ越しそのものについては了承している。

 けれど、俺としては本気で婚約をする気はなかったし、自分一人のために使用人をつけるのも忍ばれる。大して大きくもない家だから、自分のことは自分でしようと思っていた。

 だが、クラルテがこの家で暮らすと言うなら話が変わる。

 この家は家具など生活に必要な道具は揃っているが、高位貴族のご令嬢が住めるような状態ではない。


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