愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「ところで、ずっと気になっていたことがあるんだが」

「はい、なんでしょう?」

「どうして『旦那様』なんだ?」


 俺が尋ねれば、クラルテは目を丸くし、頬を真っ赤に染め上げる。


「え? と、それは、どういう……」

「よくよく考えると、俺はクラルテに名前を呼ばれたことがほとんどないなぁ、と思って。どうして『旦那様』なんだ?」


 家に押しかけてきたそのときから、クラルテは俺を『旦那様』と呼んでいた。他に突っ込みどころが多すぎたので、これまでスルーしてきたものの、密かにずっと気になっていたのだ。


「まさか、俺の名前を知らないなんてことは……」

「そんなことあるわけないじゃありませんか! こんなにこんなに大好きなのに!」

「だったらどうして?」

「それは、その…………」


 クラルテは珍しく俺の目を見ようとしない。それがなんだかもどかしくて。どうしてもこちらを向かせたくて。両頬を包んで覗き込んだら、クラルテはボン! と音が聞こえてきそうなほど、さらに真っ赤になった。


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