愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
***



 食事のあとは、再びふたりで街を歩く。


「わたくし、ショッピングって大好きです! おまけに今日はだん……ハルト様と一緒ですから、楽しさ百倍ですね!」


 クラルテはそう言って、とても嬉しそうに笑っていた。


(本当に、この子はどこに連れて行っても喜んでくれるんだろうな……)


 海でも山でも、観劇でも乗馬でも、クラルテはきっと全力で楽しんでくれるだろう。俺も、どこへ行ってもなにをしていても、クラルテと一緒なら心から幸せだろうとそう思う。

 ほんの少し前まで、仕事以外のことはどうでもいいと思っていた。行きたいことも、やりたいこともなかったというのに、自分で自分の変化に驚いてしまう


「旦那様……じゃなくて! ハルト様はなにか買いたいものがおありですか? わたくし、オシャレは大好きですし、いくらでも見繕いますよ! というか、ハルト様のものを選ばせていただきたいなぁなんて。それってなんだか夫婦感があるじゃないですか?」


 えへへ、と笑いながら、クラルテが俺の腕をギュッと抱きしめる。

 俺のお願いを律儀に守って名前を呼びなおすところも、俺のものを選びたいというセリフも、仕草も行動もなにもかもが可愛くて。思わず彼女の頭を撫でながら、俺はわずかに目を細めた。


< 123 / 266 >

この作品をシェア

pagetop