愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです! ……ねえハルト様、この場所、今は家が建っておりますが、以前は古い教会があったんです。その隣には子どもたちが自由に遊びに来たり、文字や数字を学べる建物がありまして。けれど、七年前に火事でなくなってしまったんです……」


 クラルテは目の前の集合住宅を指さしながら、俺の顔を見上げた。


「ああ、覚えてるよ。俺がはじめて担当した現場だ。すごく大きな火事だった。中々火が消えないし、右も左もわからずあたふたして……。そのうえ俺は上官命令を待たずに単独行動をしたもんで、あとでこってり絞られた。苦い思い出だ」


 そう言って笑えば、クラルテは小さく息をのむ。


(俺に同調してくれているのだろうか?)


 気にする必要なんてないのに……俺はクラルテの頭を撫でた。


「だけど、後悔はしていない。あのときああしていなければ、俺は今頃仕事をやめていただろう。上官の命令を待つことよりも幼い子供の命が、声のほうがずっと大事だった。それだけのことだ」


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