愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「というか、クラルテは自分でお湯を沸かせるのか?」

「できますよ〜〜! だってわたくし、旦那様の使用人志望ですもの! 身の回りの家事は一通りできるように勉強してきました」

「……よく両親が許したな?」


 貴族の令嬢は普通、家事なんてしない。着替えや身支度すらも侍女たちに手伝ってもらうような身分だというのに……。


「わたくし頑固なので! 一度『やる』と言い出したら聞かないから、半ば諦められていたんですよ。教える側の使用人たちもそんな感じで……そしたら、旦那様に結婚相手が必要になったって聞いたので、即立候補させていただきました! わたくし、旦那様はもう結婚をなさらないものだと思っていたから驚いて……」

「ああ……」


 この子は一体、どこまで俺の事情を知っているのだろう? 手際よくお茶の準備を進めるクラルテを見つめつつ、俺は小さく息をつく。


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