愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
 目をつぶると、あのときの出来事が思い出される。


『待ってください! まだなかに小さな子供がいるんです! わたくしたち、一緒にかくれんぼをしていて。絶対に見つけるから、それまで出てきちゃダメだよってわたくしがそう言ったから……だから、火事に気づかず逃げ遅れてしまったんです。わたくしが迎えに行かなくちゃ――』


 それはまだ幼い少女だった。自分も火傷を負っていて、助け出されたばかりだというのに、燃え盛る建物の中に戻ろうとしていた。

 当然、先輩たちは少女を止めた。危ないから離れるように、自分たちが必ず助け出すから、と。

 だけど、あの状態の建物のなかに再び突入するなんて、本当は無理だった。消火を優先しなければならなかったし、転移のための魔法陣を送れる安全な場所だって見つけられなかった。……あの子もきっと、それをわかっていたのだろう。だからこそ、自分で飛び込もうとしたのだ。


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