愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(このままでは、この子は一生苦しみ続けることになる)


 自責の念と無力感に駆られながら、生地獄を味わうのはどれほど辛いことだろう? 少なくとも、こんな小さな子供に背負わせていい重荷ではない。
 ――俺だって、そんなのは嫌だ。


『どのへんだ?』

『え?』

『君がまだ探していない場所。俺が君のかわりに見つけてくる』


 そうして俺は先輩たちが消火活動をしている合間に、建物の中に突入した。規律を重んじる消防局の隊員としては失格の行動だ。
 正直、プレヤさんがかばってくれなかったら危なかった。俺は仕事を辞めさせられていただろう。けれど――


『ありがとう、お兄さん。助けてくれて……わたくしの想いを聞いてくれて、本当にありがとう!』


 結果的に幼い命と、あの女の子の笑顔が――未来が守れたのだ。そちらのほうが俺の身分や立場よりもずっと大事だた。


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