愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
 こうしている間にも、たくさんの人が建物の中から逃げ出してくる。最低限の避難誘導は上手くいっているようだが、ここは商会。なかに何人いるか、どんな人がいるのかハッキリと把握できないのが厄介だ。


「なにが起こった? 爆発か?」


 従業員らしき人間を捕まえて事情を聞く。中年の男性だ。彼はコクコクとうなずきつつ、手のひらで胸を押さえた。


「どこだ? なにが原因だ?」

「三階で――原因はわかりません。どこからともなく炎が現れて、爆発して――階段が塞がれているんです。なかにはまだ、お客様と従業員が!」


 取り乱した従業員をなだめ、俺はクラルテのほうへ振り返る。


「クラルテ!」

「話は聞きました。三階へ繋がる魔法陣を」


 クラルテは局へと連絡をとりながら、すぐに魔法陣を作り出す。急いでその上に乗れば、俺は商会の三階へと移動していた。
 炎はちょうど、階段を塞ぐようなかたちで燃え盛っている。
 先程の従業員が言っていたとおり、中にはパッと見た限り十数人の人々がいて、炎を避けるようにして固まっていた。


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