愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(クラルテは無事に逃げられただろうか?)


 確認したいが、ここを離れることはできない。いちかばちか、魔力を最大放出して鎮火を目指す――いや、無理だ。火は小さくなるだろうが消しきれない。他の魔術師が到着するまでこの手は使うべきではない。消火活動がまったくできなくなってしまう。

 それに、気になることがひとつある。


(先程の従業員はいきなり炎が現れ、爆発したと言っていた。つまりこれは人為的に起こされたもの。魔術師による放火の可能性が高い)


 自然由来の炎と違って、魔術によって生み出された炎は消火がとても難しい。油や燃料を投入された状態の炎よりもさらにたちが悪いのだ。魔術師とタイマンでの戦闘時ならまだしも、時間をかけて練られ生み出された炎ならば、こちらのほうが当然分が悪い。


(早く……早く…………)


 熱に、炎に、じりじりと肌が焼かれていく感覚がする。息が段々苦しくなってきた。このままではいけない。このままでは――


「待たせたね、ハルト」


 肩をポンと叩かれると同時に、強力な水魔法が炎に向かって発せられる。


「プレヤさん」


 顔を見なくてもわかる。これはプレヤさんの魔力だ。
 彼を先頭に、クラルテが作った魔法陣から魔術師たちが何人も転移してくる。


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