愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「両親も『結婚なら』って、喜んでました」

「そりゃあ使用人になるよりかはマシだろうが……」

「いえいえ。そもそもわたくし、旦那様以外の人と結婚するつもりがなくて、独身で一生を終える予定でしたから」

「なに?」


 嘘だろう? まさか、そこまで思ってくれていたとは……というか、本当に? 人違いではなく? そういえば『はじめまして』とは言われなかったが……。


「旦那様にとってはわたくしとの結婚は不本意かもしれません。けれど、わたくしとても嬉しかったんです。だって、旦那様が結婚をするなら、相手はわたくしにしてほしいってずっと思っていたから」


 どこか憂いを帯びたクラルテの表情。思わず胸がドキッとする。


(いや、ダメだろ)


 俺の結婚相手はロザリンデだ――もう彼女との結婚が叶うことはない。だが、彼女に一生心を捧げると、自分にそう誓ったのだから。


「さあさあ旦那様、お茶が入りましたよ! 一緒にゆっくりしましょう?」

「……ああ、そうだな」


 楽しそうに微笑むクラルテを見つめながら、俺は少しだけ目を細めた。
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