愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「それで? これ、この間の火事の記録だろう? なにかわからない部分でもあった?」


 プレヤさんはそう言って書類を手にとります。わたくしは「いいえ」と返事をしました。


「必要な事項は網羅できていると思います。火事が起こったときの客観的な状況を普段よりも間近で見てきましたし、臨場感もあるんじゃないかな、と」


 記録というのは客観性がとっても大事です。だからといって、書き手の主観を入れてはいけないということはありません。事実と意見をきちんとわけて書けていたらオーケーだと指導を受けています。それがいずれ、なにかの手がかりになることもありますしね。さて、プレヤさんの反応はどんな感じでしょう?


「丁寧だねぇ。よく書けてる。……でも、ちょっと長い、かな。目が滑るから、このへんなんかはもっと適当に済ませてもいいと思うけど」


 プレヤさんはそう言って、書類の一部を指さします。ずばり、わたくしの主観が書かれた箇所です。苦笑を漏らしつつ、わたくしは頭を下げました。


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