愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
 到着したのは、レトロで可愛い出で立ちのお店です。家とも職場とも雰囲気がまったく違いますし、なにもかもがオシャレで可愛くて、見ているだけでテンションがあがります。ランチにはパスタにサラダ、パンにデザート、それからコーヒーがつくとのことで、これまたテンションがあがってしまいます。ランチの相手、ハルト様ですしね(超重要)!


「ハルト様、午前中の訓練はいかがでしたか?」


 努めて明るく、わたくしが尋ねます。
 ありがたいことに、今日はまだ出動要請が来ていません。毎日毎日火事が起こっては大変なので、ハルト様の身体が少しでも休まっていたらいいのですが。


「ああ、いつもどおりだよ。クラルテのほうはどうだった?」


 微笑みながら、ハルト様が尋ねてきます。……が、やはりいつもの元気がありません。


(心が痛い)


 さっきはうっかり喜んでしまいましたが、大好きな人にこんな顔をさせてしまうだなんて、とても許されることではありません。というか、わたくしがわたくし自身を許せません。あまりにも申し訳なくて、自分で自分が情けなくて、なんだか目頭が熱くなってきました。


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