愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「あの頃――今から五年ほど前の話です。当時、ハルト様は婚約を破棄されたばかりで。当然結婚なんて考えられる時期じゃなくて。直接アプローチできる状況じゃないからってことで『せめてお兄様たちにわたくしという存在をアピールしなきゃ!』とついつい気が急いてしまったのです。なんとかしてお近づきになりたいって……今思うと、完全に若気の至りというやつだったのですが」


 言いながら、恥ずかしくてたまらなくなります。心臓がドキドキと鳴り響いてますし、ハルト様の顔を直視することができません。

 そんな非常識な行動をするなんてと呆れられたり、嫌われたら嫌だなぁ、耐えられないなぁ。……いえ、つい最近わたくしは正式な婚約もまだだったハルト様の家に単身押しかけたばかりなんですけどね。


「ですから、もしもお兄様たちがわたくしのことを覚えていたらって思うと……怖かったんです。『こんな非常識な女にハルトを渡せない』なんて言われたらどうしようって。もちろん、わたくし自身がしでかしたことですし、悪いのは全面的にわたくしです。けれども、わたくしはハルト様と離れたくないから……」


 わたくしの言葉に、ハルト様がクスリと笑う気配がしました。……もしかして、本当に呆れられてしまったのでしょうか? 怖くて顔をあげられずにいると、ハルト様はわたくしの頭をポンポンと優しく撫でてくれました。


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