愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(これは早急に使用人の手配をしなければな……)


 本人が望んでいたこととはいえ、クラルテに使用人の真似事をさせるわけにはいかない。掃除に洗濯、炊事に買い物など、生活の上で必要な家事は本当に多い。この家は大して大きくないとはいえ、部屋数も多いし、平民の暮らすそれよりは大きいのだ。絶対に負担だろう。

 それに、俺に爵位を継ぐ予定はないとしても、貴族同士の結婚なのだ。体面というものがある。クラルテがよくても俺がよくない。


(いや、決して彼女との結婚に納得したわけではないのだが)


 既に押しかけられてしまったのだ。ひとまず現状を受け入れつつ、これからどうしていくかを考えるべきだろう。


「ところで、荷物はそれだけか?」

「え? ああ……!」


 クラルテの横には、彼女が背負ってきた大きな荷物が置かれている。


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