愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「そうでしたか……けれど、王都では最近火事が多い様子。消防局務めのハルトさんの出動が頻繁でしょうし、ご自宅の火事の心配もありますし、心が休まらないのでは?」

「まあ……! そうですわねぇ」


 ふむ。どうやらこの人、わたくしも魔術師団で働いているということを知らないようです。まあ、貴族の令嬢ってあまり働きませんし(奥さんのロザリンデさんはまさにそういう方だそうですから)。この方にわたくしの情報を知られていたら気持ち悪いので、むしろ良かった気もしますけど。


「私の商会では万が一の火災に備えた保険をご紹介しているんですよ」

「保険、ですか?」


 なんでしょう? あまり聞き慣れない言葉です。
 わたくしが食いついたとみたのか、ザマスコッチ子爵は身を乗り出してきました。


「ほら、ひとたび火事が起きると、家具を新調しないといけなかったり、建物を建て直す必要があったり、なにかとお金がかかるでしょう? 平民だと現金を自宅に置いていることも多く、無一文になることも多いわけです。けれど、保険に入っている方については、それらの費用をいくらか補償が受けられるんですよ」

「……なるほど」


 なんとなくですが、保険というのがどういうものか、わかってきました。もう少し情報を聞き出したくて、わたくしはしきりに相槌を打ちます。


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