愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「……どうせ、つまらない政略結婚なんでしょう? あたしのときみたいにね。だって、あなたを自ら好きになる女性なんていないもの。ねえ……あなたが望むなら、夫にバレないように時々会ってあげてもいいわよ。あなた、未だにあたしのことが好きなんでしょう?」

「は?」


 この女は、一体なにを言っているのだろう? もはや呆れてものが言えない。
 首を振り、踵を返す。とその瞬間、背中に思いきり抱きつかれ、ゾクッと悪寒が走った。


「待ってよ、ハルト」

「いや、俺は……」


 女性に対してこんなにも腹を立てたのは久しぶりだ。本気で話が通じない。そもそも、説明に時間を割くのも鬱陶しい。暴力も声を荒げるのもご法度だとわかってはいるが、俺のイライラは最高潮に達していて、いつまで我慢できるかわからない。


(さて、どうしたものか……)

「ハルト様っ!」
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