愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「大体あなた、ハルト様に向かって失礼すぎます! ハルト様のことを自ら好きになる女はいない? ――ここにおりますけれども! わたくし、めちゃくちゃハルト様のことを愛してますから! 政略結婚じゃなくて、めちゃくちゃ恋愛結婚ですから!」


 ふと見ると、クラルテは涙目になっていた。そういえば身体も小刻みに震えている。


「クラルテ……」

『旦那様はワインをかけるのがお好みですか? それとも、指輪をはめた手で頬をバチーンとしばくほうがいいですか? ロザリンデさんはどっちのほうがこたえるタイプでしょう?』

『なんで物理攻撃なんだ!? 俺のことはいいから! 仮に今後彼女と顔を合わせることがあったとしてもなにもしないでくれ……君の名誉が傷つくから』

『え〜〜? 自分の名誉よりも旦那様の名誉! 心を救うほうがよっぽど大事ですよ!』


 きっと彼女は、俺のために怒ってくれているのだろう。……いや、己の独占欲も混ざってはいるだろうが、決してそれだけではないはずだ。


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