愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「な、にを……!」

「はい。ドレスはこれで綺麗になりましたよ。ああでも、魔法で綺麗にするだけでは足りないでしょうから、後日ドレスの価値に見合うだけの金銭的な補償もさせていただきますね!」


 クラルテはニコリと微笑みながら、ロザリンデのドレスの汚れを魔法でとる。周囲の人間で俺たちのやり取りに気づいている者も見当たらない。これですべては元どおりだ。


「そ、そんなことで済むはずがないでしょう? こんな恥をかかされて、こんな、こんな……」

「えーー? 人間誰しも失敗ってあるじゃないですか? すでに謝罪はさせていただきましたし、物理的にも金銭的にも、きちんと補償をさせていただくのですから、目くじらを立てても仕方ないと思いません? そもそもここは夜会会場の出口で、誰もわたくしたちのことなんて見てませんし、一体誰に対して恥をかいたのでしょう? ――それとも、ザマスコッチ子爵家はこの程度のことを大事にしなければならないほど、度量と財力を持ち合わせていないのでしょうか?」

「なっ……!」


 ロザリンデが屈辱に顔を歪める。俺は口元がニヤけそうになるのを必死にこらえ、クラルテの頭をそっと撫でた。


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