愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
***



 とはいえ、呆けてばかりもいられない。
 クラルテが好きになってくれたのは、真面目に仕事をしている俺のはずだ。そもそも、公私混同するなんて言語道断だし、きっちり仕事をこなさなければならない。


「――今日は普段の数倍気合が入ってるねぇ、ハルト。……わかりやすい」


 そのとき、背後から声をかけられ、俺は思わずムッとした。プレヤさんだ。


「いいことがあったんでしょ? 卒業おめでとう……っと!」


 ニヤニヤと口の端を上げて笑う彼に、俺は思わず魔法を飛ばす。プレヤさんはひらりとそれをかわしつつ、おどけたように両手を上げた。


「――プレヤさん、ゲスいです」


 俺はともかくクラルテに対して失礼だろう。というか、そういう想像をされたと思うとナチュラルに殺意がわいてしまう。


「待て、ハルト! 大丈夫だから。さすがに想像とかしてないから!」


 俺の本気を察したのだろう。プレヤさんは「どうどう」と口にしつつ、静かに息をついた。


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