愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「もちろん! 大丈夫です。わたくし、旦那様に関することなら自信があります! そのために努力を重ねてきましたし、まだまだレパートリーはありますから!」


 なるほど。どうやら本気で俺の胃袋を掴む気でいるらしい。可憐な容姿に似合わず、なんとも勇ましいことだ。


「……期待している」

「ありがとうございます! 精一杯頑張らせていただきます!」


 クラルテはそう言って、とても嬉しそうに笑った。


(可愛いな……)


 食事を口に運びつつ、俺はクラルテから目が離せずにいる。嬉しそうなその表情から。楽しそうに食事をしている愛らしい仕草から。こちらを見つめる熱い眼差しから。


(……ん? 待てよ)


 可愛い? 今の、俺か? 俺が思ったのか?
 唐突に己の心の声を自覚し、俺は思わず首を横に振る。


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