愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(俺のなにがいけなかったんだろう?)


 二人の時間を作れなかったこと? もっともっと、クラルテにかまってやれていたら、こんなことにはならなかったのだろうか?
 けれど、忙しいのは俺だけじゃない。クラルテ自身も毎日忙しく働いている。


(……まさか、帰宅が遅い理由は仕事ではなくザマスコッチに会っていたから?)


 いや、違う。ありえない。クラルテがどれだけ真剣に働いているのか、俺は知っている。疑うなんてもってのほかだ。
 ……けれど、ザマスコッチと手紙のやり取りをしているのは紛れもない事実なわけで。


(ダメだ。しっかりしろ)


 クラルテに会いたい。会って、彼女の声が聞きたい。笑顔が見たい。……俺が好きだと言ってほしい。
 抱きしめたい。キスしたい。……それから、彼女が俺のものだと確かめたい。


 不安に嫉妬、葛藤……そんな生易しい言葉では言い表せない。こんな気持になったのは、生まれてはじめてだった。


 外出なんてできるはずもなく、悶々としたまま俺は夜を迎える。その日、クラルテが帰ってきたのは日付をまたいだあとだった。


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