愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「ハルト様! まだ起きていらっしゃったんですか?」


 玄関でクラルテを出迎えると、彼女は嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。使用人たちはすでに休ませているので、ここにいるのは俺たち二人きりだ。


「嬉しい! わたくし、ハルト様にとってもとっても会いたかったんです……!」


 ギュッと身体を抱きしめられ、思わず目頭が熱くなる。俺はクラルテを抱きしめかえし、彼女のつむじに顔を埋めた。


「食事は?」

「まだです……けど、お腹は空いていませんし、いりません! ハルト様と少しでも一緒にいたいから」


 そう言って、ねだるような表情でクラルテが俺を見上げてくる。

 俺はクラルテに口づけた。
 何度も、何度も。角度を変えて。頬を撫で、愛をささやき、互いの存在を――クラルテの愛情を確かめる。


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