愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「ハルト様……?」


 どうしたんですか? とクラルテが尋ねてくる。どこか不安げな表情。けれど、不安なのは……泣きたいのはこっちのほうだ。


「クラルテ、愛してる」


 本当に。
 俺は君のことが愛しくて愛しくて、たまらないんだ。


「クラルテも……俺のことが好き?」

「へ!?」


 クラルテが頬を真っ赤に染める。恥ずかしそうに視線をさまよわせつつ、彼女は俺の服の裾をギュッと掴んだ。


「好きですよ」

「……本当に?」

「ほっ……!? 当たり前じゃないですか! こんなに、こんなに大好きなのに!」

「だけど、一瞬ためらったじゃないか」

「自分から言うのと求められるのとじゃ違います。恥ずかしいじゃありませんか!」


 クラルテはそう言って唇を尖らせた。

 ダメだな、俺。これじゃ聞き分けの悪い子どもじゃないか。拗ねて、いじけて、クラルテのことを疑って……まったく救いようがない。恋はこんなにも人を愚かにするのだろうか?


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