愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(バカか、俺は。可愛いってなんだ、可愛いって……)


 確かにクラルテは可愛い。ものすごく可愛い。素直で明るく、見ているこちらまで元気になる。……いや、いささか元気すぎる気もするが、それこそが彼女の最大の魅力だろう。

 それに一途で、思い込みが激しくて、その分だけ行動力がある。どこかすかした貴族連中とは大違いだ。口先だけの人間よりも、よほどいい印象を受ける。

 もちろん、俺はまだ彼女の一部しか知らないだろう。だが、クラルテが俺を慕ってくれていることは間違いない。それだけははっきりとわかる。


(いや、チョロすぎだろう、俺……)


 ありえない。既に絆されかかっている。このままでは一瞬で陥落してしまう。 

 元婚約者――ロザリンデへの愛はどこへいった? ……いや、よくよく考えれば最初からそんなものはなかったのかもしれない。というか皆無だ。
 だが、俺はもう誰とも結婚しないと誓った。婚約を破棄されるような自分には結婚をする資格などない。その分、一生ロザリンデを思い続けるべきだと考えた。

 それなのに、ちょっとばかし優しくされて、愛情を力説されて、美味しい食事を出されたぐらいでこうもグラつくとは情けない。


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