愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

37.クラルテの謀①

「それでは行ってまいります!」

「……行ってらっしゃい、クラルテ」


 頬に触れるだけの口づけを交わし、クラルテの後ろ姿を見送る。
 たっぷり数十秒待ったあと、使用人たちに断りを入れ、俺は屋敷を出発した。


 出勤日が重なるときには二人で仲良く歩く通勤ルート。今のところクラルテは職場への道のりをゆっくりと歩いている。こちらを振り返ったり、気にしたりする素振りは見受けられない。本当に普通の出勤風景だ。


(プレヤさんもクラルテも、一体なにがしたいのだろう?)


 ついてきてほしいと言われた気がしたのは、俺の思い過ごしだったのだろうか?
 ……そりゃ、普通の人間は自分を尾行されたいなんて思わない。信用されていないと感じるだろうし、あまりいい気はしないだろう。

 だけど……相手はクラルテだからな。
 クラルテなら俺が不安や嫉妬のあまり尾行をすれば『それだけ愛されているんだ』と狂喜乱舞する――かもしれない。いや、いささか希望的観測がすぎるだろうか?

 こんな馬鹿げたことはやめよう――俺が踵を返しかけたときだった。クラルテが魔術師団とは違う方向へと足を向ける。


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