愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「俺とお前にはもう、なんの関係もない。助けてやる義理もなければ、ほんの少しの情もない。お前がどうなったところで、なんとも感じないしどうでもいい。俺にとってはクラルテがすべてだ」

「そんな……!」


 わなわなと唇を震わせつつ、ロザリンデは床に膝をついた。

 ロザリンデはクラルテとは違い、自身の生活のすべてを夫であるザマスコッチに頼っていた。手に職もなければ、家事も自分ではまったくできない。収入もない上に浪費家だし、今ある資産は捜査の過程で没収されるだろう。正直、俺たちが助けなければどうなるかは目に見えている。それでも、彼女を気の毒とは思えない。自業自得だろう、としか。


「仕方がありませんね」


 けれど、クラルテはふぅとため息をつきつつ、ロザリンデの顔を覗き込んだ。


「ハルト様に謝ってください」

「……なんですって?」

「謝って。あなたが浮気をして、ハルト様を傷つけたこと。……反省して、きちんと謝ってくださったら、わたくしが今後の生活のお手伝いを少しだけして差し上げます。もちろん、ハルト様のことは絶対にお渡しできませんし、以降のことは知ったこっちゃありませんけどね」


 ああ、まったく……俺の婚約者はどうしてこんなにも愛しいのだろう。

 俺はクラルテのつむじに口づけつつ、彼女の手のひらをギュッと握る。クラルテは俺の顔を見つめつつ、そっと瞳を細めた。


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