愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「もうお昼ですよ? さすがに寝過ぎかなぁと思って起こしに参りました」


 クラルテの言うとおり、太陽は既にかなり高いところまで昇っている。相当長い時間二度寝をしていたようだ。


 しかし、だ。
 寝起きにクラルテは心臓に悪い。ものすごく悪い。


(いやいや、可愛すぎるだろう!?)


 こんなふうに優しく起こされたらグラっときてしまうのが男の性というものじゃなかろうか? 新妻感満載だし! 俺には刺激が強すぎる!


「あ……明日からは起こさなくていい。自分でちゃんと起きるから」


 こんなのが毎日続いては身が持たない。朝から嬉しくはあるだろうが、一日中ソワソワしてしまいそうだ。


「そうですか……それは残念です」

「残念?」

「はい。旦那様が朝起きて、一番に見るのがわたくしの顔だったら嬉しいなぁって。そしたらその日一日、わたくしのことを覚えていてくれるかなぁなんて期待していたんですが……」

「いや……そんなことしなくても、クラルテは十分インパクトが強いから大丈夫だよ」


 本当に。たった一日で俺の懐に入り込んできた。ここまでグイグイくる人間はそういないだろう。


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