愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「……一体いつだ?」

「え?」

「君は俺が仕事で助けた人間のうちのひとりだろう? 大体何年前の話だ?」


 これだけ強烈な女性だというのに、俺が覚えていないはずがない。普通に出会っていたら、忘れたくても忘れられないはずだ。


「そうですねぇ……もう七年程前の話になります」

「七年前……俺が魔術師団に入団したての頃か」


 否定はしないらしい。やはりクラルテは俺に命を助けられたことで恩義を感じ今に至った、ということのようだ。

 だが、俺が彼女を思い出すのは相当困難だろう。日々たくさんの現場に趣き、色んな人を助けているのだから。今だって必死に記憶を辿っているが、思い出せる気がしないし。


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