愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「別に、こちらは仕事でやったことだ。恩返しだなどと考えなくていいのに」

「そう言うと思ってましたよ〜! だけど、わたくしは本当に嬉しかったし、あのとき本当に旦那様に惚れてしまったんです! でもでも、旦那様には当時婚約者がいましたし、わたくしはたった11歳の小娘でしたから『あなたの婚約者様はわたくしがいただきます!』をやるわけにもいかなかったわけです。その後、旦那様が婚約を破棄されたとお聞きして、新しい婚約者に名乗りを上げたかったのですが、そもそも結婚を拒否されているというお話でしたから、あまりグイグイいくわけにもいかなくて」


 相変わらずひとつ尋ねたらその数倍答えが返ってくる……。本当に、たおやかな見かけによらずエネルギッシュな令嬢だ。


「そんなわけですから、ようやく巡ってきた絶好のチャンスをみすみす逃すわけがありません! 最大限に活用しなきゃ、と思いません?」

「言いたいことは分かるが……たった一度命を助けられただけで、こうも思い込めるものか? 上辺の情報は調べられても、性格とか癖とか、そういうものは知らないだろうし……」

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