愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
 俺もあの子となら結婚してもいい? 一体なにを言っているんだ、この人は。
 もう何年も独身を貫いてきたくせに。というか、こんな遊び人が結婚?
 ギョッとしている俺を尻目に、プレヤさんはどこかぼんやりとした表情で上を向いた。


「実家は金持ちだし、本人は社交的で貴族同士の面倒なお付き合いもそつなくこなしてくれそうだし、なによりものすごく尽くしてくれそうだろう? それに、可愛いし明るいし、クラルテといれば毎日退屈しなさそうだ。ああ見えてTPOってものをわきまえているから、妻としてあれ以上の子はいないと思うんだが」


 いつもの軽口かと思いきや、案外真面目に言っているらしい。何故だろう――なんだか胸が苦しくなってきた。


(もしも俺が本気で婚約を拒否すれば、クラルテはどうするだろう?)
 
 
 本人は俺以外の人間と結婚する気がないと言っていたが、高位貴族である以上、彼女が自分の意志を押し通すのは難しいはずだ。世間体というものがある。俺のように取るに足らない伯爵家の三男とはわけが違う。

 だとすれば、昔からの知り合い――プレヤさんの手を取ることだってあるかもしれない。


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