愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
 なんとも身の程知らずがいたものだ! あいつはたしか子爵家の長男……クラルテよりも大分身分が低いじゃないか。

 ……いや、違う。クラルテはそんなことを気にするような女性じゃない。俺の使用人に志願するような人だ。身分の差なんて関係なく、色んな人と別け隔てなく仲良くなろうとするだろう。

 とはいえ、そんなに簡単に近づこうと思っていい女性じゃないのはたしかだ。

 ……いや、それも違うな。違う。
 単純に俺が嫌なだけだ。


(くそっ)


 バカか、俺は。どうしていっちょ前に独占欲なんて出してるんだ? 
 彼女は俺のものなんかじゃないのに。
 ……いや、家に押しかけられてはいる。押しかけられてはいるが、正式に婚約をしているわけではない。なんなら俺が拒否している立場だというのに……。


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