愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「旦那様!」


 悶々としている間に職員紹介が終わり、解散の号令がかかった瞬間、クラルテが俺のもとに駆け寄ってくる。思わずドキッとしてしまった。


「クラルテ、お前……」

「ビックリしました? ……その様子だと作戦成功ですね!」


 クラルテはそう言って楽しそうに笑っている。気づいたら俺は天を仰いでいた。


「ビックリした……。こういう大切なことは事前に言ってくれ。心臓に悪いから」

「え〜〜? でも、おかげで少しはドキッとしたでしょう? 吊り橋効果、的な? 驚きからくるドキドキが恋に変わったらいいなぁ、なんて思った次第で」


 ……認めよう。効いているよ。クラルテの狙いどおりだ。
 だけど、これでは俺の体がもたない。


「色々と聞きたいことがあるが、仕事の時間だ。……また、昼飯のときに」
 というか、ここで話し込んでいたら周りの男どもの視線を集めてしまう。クラルテの同期も、先程の二年目職員たちも、プレヤさんまでもがこっちを凝視しているじゃないか。


「わぁ、お昼! 旦那様にご一緒していただけるんですか? 嬉しいです!」


 クラルテは言いながら俺の手をギュッと握る。思わぬことに、全身がブワッと熱くなった。


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