愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

8.え? 全部ですけど

「それで? 今日からうちで働きはじめること、どうして俺に黙っていたんだ?」


 昼休み、食堂でクラルテと向かい合いつつ、俺は静かにため息をつく。
 うちの職場では全員が同じ時間に昼食を取るわけではないため、さして混雑していない。一番奥を陣取ったから、盗み聞きもされないだろう。これならゆっくりと安心して会話ができる。俺のお気に入りの席だ。


「黙っていた理由、ってことであれば、さっきもお伝えしたとおり、旦那様に驚いていただくためですね! 家で『実はわたくし、明日から旦那さまと同じ職場で働くんですよ』って言っても、インパクトが弱いかなぁって」

「……そりゃ、そうだろうが」


 そもそもクラルテには驚かされてばかりなのだ。こんなことでまでインパクトを求める必要なんてないというのに。


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