愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
(俺のためならクラルテはなんでもしてしまいそうだ)


 本当に。自分の身に危険が及ぶようなことすらしてしまいそうで、傍から見ていて怖くなってしまう。俺がいるときなら止めようもあるが、クラルテは俺よりも行動範囲が広く、活動的だ。なにが起こるかわからないじゃないか。


「もちろん、めちゃくちゃ本気ですよ! 旦那様はワインをかけるのがお好みですか? それとも、指輪をはめた手で頬をバチーンとしばくほうがいいですか? ロザリンデさんはどっちのほうがこたえるタイプでしょう?」

「なんで物理攻撃なんだ!? 俺のことはいいから! 仮に今後彼女と顔を合わせることがあったとしてもなにもしないでくれ……君の名誉が傷つくから」


 やっぱり、俺の想像以上のこたえが返ってきた。頼むからもっと自分を大事にしてほしい。これでは俺の身がもたない。


「え〜〜? 自分の名誉よりも旦那様の名誉! 心を救うほうがよっぽど大事ですよ! ……まあ、ロザリンデ様には借りがあるので、ノーモーションで報復を仕掛けるなんてことはさすがにしないと思いますけど」

「借り?」


 俺の問いかけにクラルテはコクリと大きくうなずく。それから彼女は上目遣いで俺を見上げた。


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