愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「もしもあの人が旦那さまと結婚していたら、わたくしにアタックのチャンスは巡ってこなかったわけですから。旦那様を傷つけたって意味では敵ですけど、わたくしの恋路的には味方でもあるなぁって。もちろん、ロザリンデ様と結婚していたとしても、気にせずアタックしていた可能性もありますけど……だって、旦那様が幸せになっていたとは思えませんし」


 何故だろう? 半ばいじけたような表情でつぶやくクラルテが、ものすごく愛らしく見える。結構ひどいことを言われている気がするんだが、まったくもって悪い気がしない。無性にクラルテの頭をワシワシと撫でてやりたい気分だ。


「それはそうとプレヤさん、いつも旦那様の情報をありがとうございます。本来ならばわたくしからご挨拶に伺うべきところを、遅れて申し訳ございません」


 クラルテはそう言ってすっくと立ち上がり、プレヤさんに向かって頭を下げる。普段より五段階ぐらいトーンが低く、丁寧で上品、とても落ち着いた印象だ。これぞ貴族の令嬢といった立ち居振る舞いである。


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