愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「だったら、分担ではなく一緒にする、というのはどうだろう?」

「え?」

「そうすれば効率がいいし、少しでも長くクラルテと一緒にいられる。……ダメ、だろうか?」

「そっ、れは……」


 俺の問いかけに、クラルテは顔を真っ赤にしながら急いで顔を下に向ける。一瞬だけ見えた彼女の表情は、ものすごく恥ずかしそうで……けれど口元がニヤけていて。なんというか――――ものすごく可愛かった。必死に表情をうかがおうとすれば、クラルテは両手で顔を押さえながら、いやいやと首を横に振っている。


(可愛い)


 シンプルに。ものすごく可愛い。
 普段の積極的で天真爛漫なクラルテも可愛いが、俺の言葉で照れて真っ赤になっているクラルテは完膚なきままに可愛い。


(これは……癖になりそうだ)


 もっとドキドキさせたい。喜ばせたい。クラルテの色んな表情が見たい――。
 にやけた口元を手のひらで隠しつつ、俺はそんなことを思うのだった。
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