愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「ねえ、どっちだと思います?」

「……そういう聞き方はずるくないか?」


 旦那様はそう言って、フイと顔を背けます。わたくし、思わず笑ってしまいました。


「ずるいですよ? だって、そうじゃないと、旦那様にドキドキしていただけないでしょう?」


 最近わたくしのほうがドキドキさせられてばかりですし。たまにはしっかりとお返しをしなくては。もっとわたくしのことを好きになってほしいですから! 陥落する気満々ですから!


「わかっているくせに」


 とんだ小悪魔め、なんてつぶやきながら、旦那様はわたくしのことをチラチラと見ます。


(ええ、わかっていますとも)


 人はわたくしのような女を『あざとい』とか『計算高い』と呼ぶのです。

 けれど、あざとくたって――計算高くたっていいじゃありませんか? もちろん、旦那様に嫌われてしまったら元も子もありませんけど、そうじゃなさそうってことぐらいはちゃんと観察してわかっています。
 それに、わたくしは攻められるのは性に合わないのです! 目的のためならズルくもなります。


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