運命

6

 次の店に行こうという鈴菜の誘いを断って、逃げるように帰路についた。マンションのオートロックを開けて、エレベーターに乗る。扉に映った自分の顔から目を逸らす。
 とても嫌な気分。
 和也に早く会いたい。
 私はエレベーターから降りると急いで部屋の鍵を取り出して、扉を開けた。
 人の気配がない。慌てて和也の靴がないか見る。ない。

「和也?」

 腕時計を見ると、時刻は22時半。
 嫌な予感がした。

 ベッドルームに足を運ぶ。
 いない。
 バスルームを開ける。
 いない。

「和也?!」

 私は狂ったように全ての部屋を見て回った。
 和也がいない。残業? いや、そうじゃない気がする。
 私はスマホを取り出し、和也にかけた。

『おかけになった電話は電波の届かない』

 全て聞き終える前に切った。

 まさか、まさかね。
 やっぱり残業かもしれないし。

 私はソファーに身を委ねた。
 疲れる。なんだか全てが疲れる。
 なぜ和也は帰ってこないの?

 掛け時計が時を刻む音だけが静かな部屋にこだまする。単調でそれでいて不安をあおる音。
 私はクッションを抱きしめていた。

 早く。早く和也、帰ってきて。

 一時間近くそうしていたと思う。ガチャリと玄関のドアが開いた。
< 26 / 32 >

この作品をシェア

pagetop